若冲とカラヴァッジョ

昨日の日曜スペシャルは「若冲 天才絵師の謎に迫る」というタイトルで、画家の伊藤若冲についてのものでした。
日曜スペシャルは時事問題などが多くて、アートに関するものを取り上げるのは珍しいと思います。

番組は午後9時から始まったのですが、その前の午後8時から、教育テレビで日曜美術館幻の光 救いの闇 カラヴァッジョ 世界初公開の傑作」という、カラヴァッジョの「法悦のマグダラのマリア」を取り上げていたので、続けて絵に関する番組を興味深く見ることが出来ました。

カラヴァッジョについては、以前も書いたので、今日は、伊藤若冲について主に述べることにします。
実は、伊藤若冲の絵は何点か見た事があるのですが、そんなに興味があるわけでもなく、もちろん今回の展覧会にも行っていません。

伊藤若冲については、ちょっと変わった絵を描く画家というイメージがあったのですが、今回の番組を視たら、イメージがまったく変わって、凄く興味が湧いてきたので、今度展覧会に行ってみようと思います。

なんでも、若冲は「千載具眼の徒を待つ」(私の絵は千円後に理解される)と言ったそうですが、最近の研究により、驚くべき技巧が使われていることが判ったそうです。

同時代の他の絵師とそう変わらない限られた絵具しか使っていないのに、極彩色なのは、違った色を何層も重ねて塗る、塗る顔料の厚みを微妙に変える、絹目の絵の背面から顔料を塗る等の革新的な技法を使っているのですが・・・さらに、絹目の隙間に0.1ミリ以下の顔料の粒子を置くといった、驚きの技法が使われているそうです。
人間の目で認識できないレベルなのですが、潜在意識で混色を感じられるようになるそうです。

この緻密さは、孔雀の羽の部分などを高精細カメラで分析した時・・・0.2ミリの細かい無数の均一の白い線で描かれている、といった事にも表れています。
それも、肌色の絹地に下書きも輪郭も描かずに白一色で直接描いているそうで しかも一箇所も描き間違いが無いといった超絶技巧だそうです。

また、花びら等の部分に光を表現した陰影があるのも凄い事で、西洋で100年後に印象派によって光の表現がされるまで、誰もやった事の無い表現方法だったそうです。

そして、有名な「鳥獣花木図屏風」・・・モザイクのように8万6千個のマス目で表現してあるのですが・・・マス目の中をさらに分割して数色で塗り分けていて、遠くから見るとひとつの色を感じるようなっています。
そして、このマス目の中を分割して塗り分けたのが反射率の違う絵具のため、照明の当たり具合を変えると見える色が変化するようになっているそうです。
マス目で描いたのは、単に奇抜さを狙ったのではなく、色の再現に拘った技法だったのですね。

どうやら、若冲は基本的に独学で絵を学び、ありのままの自然を師としていたようです。
ありのままがもっとも美しい それが若冲の到達点で、ありのままを描くために色々と工夫したようです。

ここで気になるのが、その前の日曜美術館で取り上げたカラヴァッジョとの共通点です。
カラヴァッジョも独自の画風の天才画家で「モデルが師」といわれるように写実性に拘っています。
そういえば、「よい画家とは現実をきちんと写しとることが出来る者」と、カラヴァッジョは言ったそうです。

また、若冲は枯れたり虫食いになっている病葉(わくらば)を描いたのですが・・・カラヴァッジョも、虫食いや萎れた果物などをそのまま描いたのも共通しています。
そういえば、下絵を描かず、いきなり描くというのも共通していますね。

番組では、若冲は命の輝きを追求した、と言っていましたが、カラヴァッジョも同じだったような気がします。
日曜美術館の方では、カラヴァッジョはそれまでの絵画に対する反骨ではなく、純粋さゆえに写実的に描いたと言っていましたが・・・若冲もカラヴァッジョも対象に命を感じ、それを写し取ろうとしていたような気がします。