死海文書に関する迷著

ここのところ、アンベードカルの「ブッダとそのダンマ」とE・ルナンの「イエスの生涯」という名著を紹介してきました。
今日は、名著でなくてちょっと困った迷著の話です。

昨日、少し死海文書について触れましたが、本棚の奥で死海文書に関する本を2冊見つけました。
この2冊、当時は結構評判になってベストセラーだったのですが、死海文書の全貌が判明した今となっては、見当違いというか困った本になってしまいました。

既に御存知の方も多いと思いますが、死海文書は、その名前のとおり死海の傍の洞窟で、1947年に迷子になったヤギを探していた羊飼いによって発見されました。
そして、その壺に入った羊皮紙の巻物が、古代の旧約聖書の写本だということが判明すると、一大センセーションを巻き起こしました。
なぜなら、当時知られていた最古の旧約聖書の写本は、925年頃に作成されたアレッポ写本だったからです。
その後、付近の洞窟でも写本が発見されており、聖書の写本以外にも聖書に関連する書物も多く発見されました。

死海文書により、キリスト教の新たなる真実が明らかになるのではないか?という期待が高まりましたが、最初に数冊の文書のヘブライ語と英語版が発表されてから、その後はばったりと発表が途絶えてしまいました。
実は、最初に発表されtのは保存状態の良い文書で、残りは状態が悪く断片をつなぎ合わせる必要があったそうです。

しかし、発表が途絶えたことで、色々な憶測が生まれました。
そんななかで、発売された多くの本の中に、この2冊も含まれます。

1冊目は「死海文書の謎」という本で、死海文書にはバチカンカトリック教会に不都合な事が書かれているので、発表を妨害されていると主張しています。
さらに、アレッポ写本や4世紀のギリシャ語のテキストまで資料が無いのもバチカンが隠ぺいしていると推論しています。
死海文書の全貌が明らかになって、バチカンに不都合なことは何も書かれていない事が判明した今となっては、根拠のない非難だったと言えます。

2冊目は「イエスのミステリー」という本で、死海文書にイエス・キリストについて書かれた箇所があり、死海文書に書かれている「義の教師」がヨハネであり、「悪しき祭司」がイエスだと主張しています。
しかし今となっては、大半の死海文書の書かれた年代がイエス誕生以前だったという事が判明しています。

・・・と言う事で、今となっては何だこれは?という感じの2冊ですが、当時はロマンを感じさせてくれたものだったのです。
ちなみに、この2冊は、あの「ダヴィンチ・コード」のアイデアの元になったそうです。

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死海文書の謎」 マイケル・ベイジェント/リチャード・リー共著 高尾利数訳 柏書房

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「イエスのミステリー 死海文書で謎を解く」 バーバラ・スィーリング著 高尾利数訳 NHK出版