エリック・ショーンバーグとTJトンプソン

前回は、エリック・ショーンバーグがマーチンにオーダーしたSOM-28やSOM-45のような、OMサイズが好みだという事を書きました。
実は、エリック・クラプトンも000サイズよりOMサイズの方が好みだそうで・・・もちろんクラプトンの事だからオールドのOM-45(40本しか作られなかった)を秘蔵しているらしいです。

 

なんでも、マーチンの工場にはクラプトンの“If I could choose what to come back as, it would be a Martin OM-45″(私が戻るべきところを選べるならマーチンOM-45)という言葉が掲げてあるそうです。
でも、クラプトンのオリジナルOM-45を修理したのはマーチン工場ではなく、ヴィンテージ・マーチンのリペアでは右に出る人がいないと言われているTJトンプソン氏だそうです。
クラプトンがTJトンプソンに直接依頼したのか不明ですが・・・マーチンに修理を依頼した場合、難しい作業等だとTJトンプソンを紹介される事があるそうです。

 

日本ではあまり知られていませんが、そのTJトンプソンはリペア業の合間に年間数本のギターを制作していて、これがまたヴィンテージ・マーチンの完璧なレプリカだそうな・・・
当然、市場に出てくる事はほぼ無く・・・昨年、珍しくDream Guitarsで2007年製OM-45が87,550ドル(1ドル140円だと12,257,000円)で売りに出されました。
海外のフォーラムでは「それだけ払うならオリジナルのOM-28を買う」とか「楽器屋のぼったくりだ」という声が上がっていました。
(2010年頃のオーダー価格は、18が22,000ドル、28が25,000ドル、42が30,000ドル、45が33,000ドル、45DLXが35,000ドルでした)
そんな声をよそに、オーダーしても完成するのは10年以上先という事もあり、すぐに売れてしまいました。

 

実は、このTJトンプソンもエリック・ショーンバーグと関係があり、そのお陰で有名になったそうです。
元々TJトンプソンはダナ・ボジョアの最初の弟子で、その後Elderly Instrumentsのリペア部門の責任者となり、数多くのヴィンテージの修理を行った事により豊富な知識を身に着けたそうです。

一方、元師匠のダナ・ボジョアがエリック・ショーンバーグと共に、1986年にマーチンとコラボしてソロイスト(カッタウェイ付きOM)の製造を行うようになり、ヴィンテージの知識を買われたTJトンプソンもピラミッド・ブリッジの製造などを手伝います。

 

ダナ・ボジョアは1990年にポール・リード・スミスのアコースティック・ギター計画に参加するためにソロイスト・プロジェクトから離れてしまい、代わりに1991年からはTJトンプソンが後任となります。
ダナ・ボジョアの時代は木材のキットを製造し、マーチン工場が組み立てていましたが、TJトンプソンはヴィンテージの知識を活かすため主要工程(ネックシェイピング、トップへのブレイシング接着、ブレイシングのシェーピング等)を自ら行う形に改め、接着にニカワを採用しました。(その後、トップにアディロンダックの採用もしました)


ショーンバーグはTJトンプソンのヴィンテージ・マーチンに関する豊富な知識を認め、1992年からヴィンテージ・マーチンのレプリカを計画します。
しかし、1994年にはショーンバーグとマーチンのコラボは解消となり・・・その間に出来たソロイスト以外のレプリカはOM-45(DLX)4本、000-30が5本、OM-28が6本、そしてマーチン社ディック・ボークによるオーダーの000-42が1本の合計16本だけでした。

 

マーチンとのコラボ解消により、ショーンバーグはカリフォルニアへ引っ越し、別のルシアーを使ってショーンバーグ・ギターを製造するようになり、TJトンプソンはリペア業者として独立しました。
しかし、TJトンプソンのこれまでの仕事を知ったお客からヴィンテージ・レプリカの製造をオーダーされるようになったようです。
TJトンプソン自身は、広告はもとより看板も出してないのにリペアとレプリカのバックオーダーで大忙しだとか・・・