マイナス・ゼロ

先日、広瀬正SF小説鏡の国のアリス」を紹介しました。
広瀬正の小説はどれも素晴らしいのですが、代表作と言えば処女作の「マイナス・ゼロ」でしょう。

この作品は、1965年に同人誌の「宇宙塵」に連載されたそうですが、その後1970年にやっと単行本として刊行されたそうです。
すぐに評判となり、直木賞の候補となったそうですが、残念ながら落選したそうです。
ちなみに、その後に発表した「ツィス」と「エロス」の2作品も続けて直木賞の候補になりましたが、それも落選したそうです。
そして、その直後の1972年に、心臓発作のため急逝してしまいます。
逝年47歳だったそうで、大正13年生まれということは、私の父と同い年ですね。

なんでも、あとがきによると、戦後、歩いていたら進駐軍の米兵にいきなりなぐられて、そのとき1年間分の記憶を失ったそうで、10分間だけ空襲中の時代の人間となっていたとか・・・それがこの本のアイデアとなったそうです。

解説には、「タイムトラベル小説の最高峰と謳われ、今や日本SF史の記念碑的存在となった」と書かれています。
もっとも、この本には、単にSF小説というだけでなく、ロマンチックな面もあり、詳細に描かれた過去の世界によるノスタルジア、そして謎解きのミステリーといった要素もあるので、大勢の読者の心をとらえて離さないのだと思います。

ライターを知らない戦前の人が怯えたりするのですが、このライターが最後に意味を持つなど、細かな伏線にも配慮が届いていて、良くできたストーリーで読み返しても面白いです。

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「マイナス・ゼロ」 広瀬正著 集英社文庫