電波の停止?

高市総務大臣の電波停止発言が、憲法の保障する言論の自由に抵触するのではないか?と問題となっています。
昔、法律を勉強した事もあり、ちょっと気になったので調べてみました。

そもそも、この発言は民主党の奥野議員の「これを恣意的に運用されれば、政権に批判的な番組だという理由でその番組を止めたり、番組のキャスターを外したりということが起こりうる。放送法4条の違反には、放送法174条(業務停止)や電波法76条(電波停止)を適用しないことを明言してほしい」という質問に答えたものでした。

ここで取り上げられているのが、放送法4条、174条と電波法76条です。
引用が多くて申し訳ありませんが、それぞれの条文を見てみると・・・

議論となっているのが放送法4条の解釈で、
「第4条 放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一 公安及び善良な風俗を害しないこと。
二 政治的に公平であること。
三 報道は事実をまげないですること。
四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」
という文章、これが放送業者の努力義務なのか、それとも規定なのかという事です。

で、高市総務大臣のように規定と解釈すると、放送法174条の
「第174条 総務大臣は、放送事業者(特定地上基幹放送事業者を除く。)がこの法律又はこの法律に基づく命令若しくは処分に違反したときは、3月以内の期間を定めて、放送の業務の停止を命ずることができる。」
あるいは、電波法第76条の
「第76条 総務大臣は、免許人等がこの法律、放送法若しくはこれらの法律に基づく命令又はこれらに基づく処分に違反したときは、3箇月以内の期間を定めて無線局の運用の停止を命じ、又は期間を定めて運用許容時間、周波数若しくは空中線電力を制限することができる。」
によって、総務大臣が電波の停止を命じられる。というものです。

しかし、これでは、政府の恣意的な解釈によっては、政権に批判的な報道を制限する報道規制ができてしまうということで・・・放送法4条は、放送業者の努力義務と解釈するべきだ、という人がいます。
その根拠として、放送法第1条
「第1条 この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一 放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二 放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三 放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。」
から、この放送法自体が、そもそも表現の自由を目的としていることをあげています。
で、従来の解釈では、こちらの努力義務の方が定説となっています。

まあ、安倍政権では、安全保障関連法案で憲法解釈も変更してしまったし、この程度の解釈変更は驚くほどではないのかもしれません。

ところで、この論争にはあまり関係がありませんが・・・電波停止の根拠にしている放送法の第174条も電波法の第76条も、放送の業務の停止とか無線局の運用の停止であって、直接的な電波の停止を規定していません。
つまり、運用とか業務というのは人(法人)に対するものなので、他の者によってその放送設備は電波は継続して出すことができるのです。
(実質的には、免許で設備が限定されるので、他の者が継続するのは不可能だと思いますけど・・・)

実質的な電波の停止については、電波法の第72条
「第72条 総務大臣は、無線局の発射する電波の質が第28条の総務省令で定めるものに適合していないと認めるときは、当該無線局に対して臨時に電波の発射の停止を命ずることができる。」
に定められています。
ちなみに。電波法第28条は
「第28条 送信設備に使用する電波の周波数の偏差及び幅、高調波の強度等電波の質は、総務省令で定めるところに適合するものでなければならない。」
となっています。

つまり、電波が総務省令に違反したときに限って、電波の停止ができるのです。

どうも、法律を勉強すると、法文に使われている言葉は厳密に使わなければいけない、と思ってしまいます。